Vol.8 株式会社フジテレビジョン
FMH Inside Story
矢﨑裕明(スタジオ戦略本部第3スタジオ制作センター企画担当部長)
吉田優子(コンプライアンス推進局長)
加藤正臣(投資戦略センター室長)
田中良樹(スタジオ戦略本部第3スタジオ制作センター演出担当)
横山和加子(サステナビリティ経営推進室 サステナビリティ経営推進部長)
視聴者は「全世界」 番組を育て届ける
地上波放送を主軸とする従来型のテレビ局から、映画やネット配信、海外展開など多角的な窓口を通じて自社のコンテンツを供給する「真のコンテンツカンパニー」に向け大きく舵を切ったフジテレビ。昨年7月には大規模な組織改変に踏み切り、コンテンツのバリューチェーン全体の収益機会の拡大を目指す。世界水準の番組作りには、人権への意識を高め、同時に持続的な成長に向けた改革も不可欠だ。フジ・メディア・ホールディングス(FMH)の中核企業として、それぞれの取り組みを牽引するキーパーソンに話を聞いた。
動画配信サービスもパートナー
昨年7月に従来の組織を再編し、編成機能を「コンテンツ投資戦略局」へ統合、制作部門を「スタジオ戦略本部」のスタジオ機能に集約するなど、制作環境を新たに構築したフジテレビ。IPを創出・活用し、さまざまな形で届けるため、いかにIPを開発し、従来の地上波視聴者層の拡大に加え、さらに外側へリーチを図っていくのか。コンテンツ展開や事業戦略に取り組む2人に話を聞いた。

ディストリビューションセンター 室長 橋詰 知明氏
「せっかく多様な作品を作っているのに、まだ届け切れていない方々がいる。そのために、地上波以外の流通経路も整えていきたい」
ディストリビューションセンターは国内外の動画配信サービスや映画、番組販売などの窓口を通じて、フジテレビの映像コンテンツを多角的に展開する「コンテンツの収益化」の最前線を担う。橋詰氏は「ディストリビューションは直訳すると『流通』。フジテレビが持つ映像資産、作品をできるだけ多くの方々に届けていくのが使命」と語る。
橋詰氏によれば、影響力を増す動画配信サービスも競合相手ではなく「パートナー」だ。「動画配信サービスには若者を中心に、地上波で届けきれていない層が多く加入している。そういった方々にフジテレビのコンテンツを届けたい」。ドラマシリーズ『教場』の最新作では前編をネットフリックス独占配信、後編を映画館で劇場公開。ネットフリックスのリーチ力を活用した認知の拡大を狙う。
実績のある企画をフォーマットとして販売することもコンテンツビジネスの一環だ。昨年10月にはバラエティー番組『新しいカギ』の人気コーナー「学校かくれんぼ」の海外版制作に向け、デンマークの大手制作会社と契約を締結した。
「地上波中心」からの転換必要

投資戦略センター室長 加藤 正臣氏
「その企画に『収益性がある』『未来がある』と判断し、それから制作にゴーサインを出す。単に止める役割ではなく、どうすれば収益性が大きくなるのかを建設的に考え、ヒットコンテンツにつなげたい」と加藤氏は語る。
これまでフジテレビは地上波放送をビジネスの中心と考えてきた。同時間帯に他局で放送される裏番組も勘案した編成方針のもと、タイムテーブルを決定し、そこで流れるテレビCMが収益の柱となってきた。
加藤氏は、そうした地上波中心の発想からの〝転換〟こそが改革の大前提だと力を込める。「一つのコンテンツがあったときに、これを地上波で出す、フジテレビオンデマンド(FOD)で出す、外部配信プラットフォームでも出す、さらに映画化したり、海外へフォーマット販売したりと、多様なウィンドウ展開の道がある」とし、「地上波以外のいろんなプラットフォームで出したとき、仮に1億円を使っても、3億円が稼げるコンテンツであれば、やる価値がある。そういった意味での投資戦略を日々練っている」と、より多額な資金を制作に投じられる可能性を示す。
その実現には社内横断的な連携が欠かせない。「スタジオ局やコンテンツ事業局、ディストリビューションセンター、営業局、マーケティング局など、さまざまな部署と連携しながら、一つ一つのコンテンツから高い収益性を引き出せるような戦略を打ち立てていきたい」と意気込んだ。
フジテレビは2025年10月から「for the NEXT」をテーマに掲げ、次世代につなぐコンテンツ制作に力を入れている。そのテーマ実現の中核に位置するのが、お笑いバラエティー番組『新しいカギ』。番組内の企画「学校かくれんぼ」は、小学生や中高生の反響だけでなく、海外での評価も高い。チーフプロデューサーでスタジオ戦略本部第3スタジオ制作センターの矢﨑裕明・企画担当部長と演出担当の田中良樹氏に、次世代の未来を応援する番組制作への思いについて聞いた。

お笑いバラエティー番組『新しいカギ』 ©フジテレビ
お笑いコンビ・霜降り明星らが出演する『新しいカギ』は21年4月に放送開始。当初はコントなどが中心だったが、高校生を巻き込んだ学校企画が始動すると人気に火がついた。
矢﨑部長は「企画段階で、学校とかくれんぼという2つの言葉を見て『だれが見るのかな』と悩んだ。ところが、美術担当の技術や分かりやすい画面構成など演出の力に、高校生の熱狂が掛け合うことで既成概念を覆すコンテンツに。今や国境を越えて反響が広がり驚いている」と振り返る。
『新しいカギ』は25年5月、独の国際映像祭「ワールド・メディア・フェスティバル」(子供と若者向けオープン部門)で初の銀賞を獲得。霜降り明星のせいやの母校で行った「学校かくれんぼ」(24年7月放送)が高評価を得た。

ベルリンでの授賞式に参加した矢﨑氏(左)、田中氏
ベルリンでの授賞式に参加した田中氏は「映像メディアの作り方の要素に〝共感〟があるが、文化が違うと共感のポイントも違う。その中で日本向けに作った番組がそのまま評価されたことに手応えを感じる。かくれんぼは万国共通の遊びだが、番組ならではの祭りのようなエンターテインメント感が楽しまれていた」と冷静に指摘する。
「学校かくれんぼ」は25年10月、デンマークの制作会社とライセンス契約を締結し、海外版制作が予定されているという。番組のコンセプトや構成などの「番組フォーマット」を海外向けに販売するビジネス面での期待も高い。
矢﨑部長は「局内の期待を感じ、身が引き締まる思い」としたうえで、「子供の未来だ、海外展開だとあまり気負いすぎず、原点を大切に、視聴者に『元気になった』『将来がんばってみよう』と前向きな気持ちになってもらえるような番組作りを続けたい」と話している。
声を上げられる会社に

コンプライアンス推進局長 吉田 優子氏
7月に局長に就任した吉田優子氏は、現場とのコミュニケーションの重要性を訴える。「ルールを押し付けるのではなく、コンプライアンスの大切さを丁寧に伝え、理解してもらうのが基本」と強調する。
最近の社内について「上司に言いにくかったことも含め、声を上げやすくなった。心理的安全性が高まっている」と話す。吉田氏は「『人とコンテンツ制作を大切にする会社』という新たな方針のもと、問題を〝自分ごと〟としてとらえ行動するという意識が根付いてきているからでは」と分析する。
社員はもちろん、派遣や業務委託先のスタッフなどからも相談が増えている。「ハラスメントに至らないための予防策など、前向きな内容も多い」という。例えば、言葉の伝え方や接し方に工夫を求める相談や、業務指示を円滑に伝えるためのコミュニケーションの改善策などが寄せられ、日常的に現場と双方向で話し合う機会も増えている。
業務は広範だ。過去に遡る事案であっても、求めがあったものについては「弁護士を交え、しっかり対処する。その人の人生がかかっているから」と話す。「どんな職場にも人間関係の難しさはある。でも、それをハラスメントと感じ、悩んでいる人がいるかぎり、一つ一つ、丁寧に向かい合っていきたい」と力を込める。
新たな企業理念や価値観創出

サステナビリティ経営推進室 サステナビリティ経営推進部長 横山 和加子氏
運営を担当するサステナビリティ経営推進部の横山和加子部長は、「リブランディングチームでは、30代の若手社員が中心となり、アンケートや社内外の対話を重ねながら『フジテレビの目指すべき姿』について考え、フジテレビが社会に対して新たな価値を生み出していくための新しい企業理念の創出に取り組んでいる」と語る。
各プロジェクトを通じて、現場レベルでは着実に変化が広がっているという。撮影部門では、生理など女性の身体と健康について勉強会を開催し、女性カメラマンが長時間取材や災害現場で配慮すべきポイントを学習、女性スタッフが働きやすい職場の実現をめざす。報道局も、障がい者スポーツのナレーションに「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)があるのではないか」とする視聴者の指摘を重視し、すぐにパラリンピアンを招いて受け止め方についての意見を聞いた。「職場環境や意識の改革を進める機運が高まり、社内は確実に変化している」という。
10月には、国連などが提唱し、ジェンダー平等と多様性の尊重を目指す「女性のエンパワーメント原則」(WEPs)に署名した。「ただ署名して終わりではなく、社内のジェンダーギャップをなくすため、幹部も中堅も真剣に議論を重ねている」と横山氏。「人に優しい会社に変わる動きを、若い人たちに伝えていきたい」と意欲的だ。
改革アクションプラン
フジ・メディア・ホールディングス(FMH)は「改革アクションプラン」で、グループ企業の目指す方向性を「エンゲージメントが高くオリジナリティに満ちたコンテンツや体験の場を創出することで、人々が喜びやつながりを実感できる社会づくりに貢献します」と定義。「創り出す」「形づくる」「届ける」「つなげる」の4つの実行プロセスをキーワードに、グローバルIP(知的財産)の創出や、新規事業開発などに取り組んでいます。
(本記事は2026年3月19日時点の内容です)
株式会社フジテレビジョン
会社情報 : https://www.fujitv.co.jp